エンジンハンガー全節ベアリング化

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エンジンユニットのグラつきを改善しようかと 

ランナーのエンジンってグラグラです。
 
センタースタンドを掛けてタイヤを揺すってみると、車体と全く別にエンジンだけがグラグラと動きます。
これに気付いたのはランナー運用開始から2,3年経ってからだったので、経年変化のたぐいだと思ってました。
 
ちょうどエンジンのオーバーホールをする機会があったので、エンジンハンガーのリンクをバラして、 磨耗が出てる部品を交換するか作り直すことにしました。

 
まずは一番怪しい樹脂カラー 

エンジンユニットとフレームとを連結してる中折れ式のリンクの回転軸にはジュラコンのカラーが入ってます。
このカラーは中折れリンクのガタつきを防止するために、 内径・外径とも若干キツめの挿入となる寸法でできています。
 
時々H.I.D.宛てに「ランナーのエンジンハンガーの白いカラーを金属で作り直して欲しいんですが」という依頼があるので、 「このカラーって相当に磨耗するんだろうなぁ」と思ってました。 なにしろキツめの挿入ですから、常に圧力を受けながら微少に回転して磨耗に至るんだと思っていたのです。
 

これはお客さんが送ってくれた画像ですが、 穴が楕円形に磨耗してしまってます。
 

こちらは更に樹脂の一部が無くなってしまっています。
「センタスタンドを下ろすとタイヤが傾きます」とのことでした。
 
こんな画像を見た後ということもあり、 「ランナーのエンジンのグラつきはこのカラーが原因に違いない」と、思い込んでいたのでした。
 
ところが、エンジンを取り外して中折れリンクを分解してみると、このカラーは大してというか全然磨耗していませんでした。
内径も外径も押し込まないと入らない程度の抵抗をちゃんと保持していて、 エンジンユニットのネジレを引き起こすようなガタは出ていませんでした。
上の画像ではカラーに錆びの色が着いていますが、中心のシャフトが錆びて着いた色だと思います。
ある程度カラーの磨耗が進み、シャフトとの間に水が浸入するようになると、シャフトの表面が錆びて滑らかさがなくなり、 カラーをヤスリで削るような現象が起きて磨耗が加速度的に進むんでしょう。
 
わたしの車両でももうちょっと時間を置けば一気に磨耗が進んだことと思いますが、 まだ磨耗が進んでいない車両でもエンジンがグラグラするというのは一体....
 

 
ゴムブッシュのほうか? 

次に怪しいのはエンジンユニット側のマウントアームに圧入されてるゴムブッシュでしょうか。
 
以前、ランナーとほぼ同じアライメントの空冷エンジンを積んでいる、アプリリアのSR150に乗っているKOBAさんという方とお会いしたとき、 ランナーと違ってゴムブッシュではなくベアリングが入っているのを見せていただきました。
エンジンとフレームがカチッと一体感をもって連結されていて「SRのフレームはイイですね〜」なんて話をしたんですが、 ゴムブッシュを使わないマウント方式がグラつきを抑えていたのかもしれませんよね。
 
ただ、SRのエンジン懸架方式はランナーとは若干違うので、このブッシュをベアリングにするだけでグラつきが無くなるかどうかは分かりませんし、 KOBAさんのSRを見せてもらったときは「オレのランナーは樹脂カラーが磨耗している」と思い込んでいたので、 SRのフレーム構成観察にあたってエンジングラつきの真因追究という視点は欠落していました。
KOBAさんには「ランナーにもこのベアリング入れてみたいですね〜」というお話もしたので、 今回の改造でベアリング化に挑戦してみることにしましょう。
 
なお、KOBAさんのSRはランナーのエンジンが載せてあり、SRのベアリングがランナーのエンジンマウントにも入ることはKOBAさんが確認済みです。
 

 
結局全変更 

結局のところ、わたしのランナーのエンジンに関しては、何がエンジンぐらつきの原因なのか特定できなかったので、 怪しそうなところを全部作り変えてみるしかなさそうです。
 
何しろ、スロットルにもベアリングを仕込むくらいベアリング大好きなわたしですから、 ゴムブッシュをベアリングに変更する件はすでにノリノリ。
中折れリンクの樹脂カラーもベアリングに置き換えるための予備調査を完了しちゃってるし、もう実行するだけなんですよね。
 
というワケで、今回の改造は「エンジンハンガーの回転部分を全部ベアリング化してしまおう」を主題にして進めることにしました。
 
 

 
ゴムブッシュをベアリング化 

今回のエンジンハンガー改造は内燃系オーバーホール と同時期に進めていました。
 
クランクシャフト換装のためにクランクケースを割ったときに、 このゴムブッシュを摘出してベアリングに変更することにしました。
 
KOBAさんがやったように、SR150の純正部品を入れてみるのも良いと思うんですが、 このゴムブッシュ、最初の大改造のときに採寸してありまして、 JIS/ISOの汎用ベアリングの寸法表と比較してみると内径と外径が適合するものがありました。
 

置き換えに使ったベアリング、6200(外径30、内径10、幅9)
雨水や撥ね水を被る可能性を考えて両面接触シール付きのものにしました。
1個\236でした。
 
ゴムブッシュのほうが幅が広い(エンジンマウントとの嵌合部で24.5mm)のですが、ベアリングを3個並列配置して隙間を埋める形にしてしまえば 汎用ベアリングで置き換えることができます。
以前、JOHさんという方からSR150の純正ベアリングを見せてもらったことがあるのですが、 汎用のベアリングより幅が広い特殊形状のものでした。
中がどうなっているかは分かりませんでしたが、2列の軌道輪がありそうな形状でした。
 
SRのベアリングの軌道輪が2列なら、こっちは3列!
しかも世界最高性能の日本製のベアリングだ!
 
 

 
ゴムブッシュ摘出 

ところがどっこい、一番の難関はゴムブッシュの摘出でした....
 

エンジンマウントの外側からカラーを差し込んで押してみたのですが、 相手がゴムだけに「ノレンに腕押し(w)」の状態。
 

マウント側に突っ張らせたほうのカラーが変形する始末。
 

仕方がないのでリューターでゴムを削り飛ばし....
 

マウントに圧入してある鉄製リングを、これまたリューターで破壊して摘出するという方法をとりました。
 
 
 
ところがこの鉄製リングを摘出する際、 エンジンマウントの穴のほうに傷をつけないように気をつけて作業したつもりだったんですが、 刃物がマウントの穴までバッチリ貫通してしまいました。
 
ヘトヘトになりながら作業していたので写真を撮るのを忘れちゃったんですが、 幅3mm深さ1mmくらいのスノボのハーフパイプみたいな溝が入ってました。
 
こんな傷が入っちゃったエンジンマウントにベアリングなんか圧入して大丈夫なのか?
かなり心配しながらベアリングを圧入してみましたが、 M8ネジスタッドを使った圧入冶具で「スルスル」と入るくらいの軽圧入でした。
 
まぁ、このくらいの圧入圧力だったら内側から割れることは無いだろう、 取り敢えず自分が実験台になって健全性を検証してみることにしました。
 

ベアリングを圧入して完成したマウントです。
出来てしまえば最初からこうであったかのように自然な出来栄えですが、 穴の内面には忘れてしまいたいくらいの傷がバッチリ残っています。
 
 
 
ベアリングに置き換える前に入っていたゴムブッシュは、 アクスルボルトが通る内側の筒が出っ張る形状になっていて、 汎用ベアリングで置き換える場合はこのデッパリに相当する厚みを、 スペーサーか何かで補ってやる必要があります。
 
マウントアーム内側は左右共1.5mmづつ足りなかったので、M10のワッシャで厚みが1.5mmのものを挟むようにして、 センターの大きなゴムブッシュを貫通するカラーはそのまま使える構成としました。
 
 

ベアリングの外側と中折れリンクの間は7mmの隙間ができるので、 アルミで段付きスペーサーを作りました。
厚み構成を工夫すればM10のワッシャを数種類用いて代用することもできるかもしれませんが、 このキラッと光るアルミスペーサーがベアリング化工事完了の証しだぜっ、というワケなんです。
 

 
中折れリンクのベアリング化 

先の項で「中折れリンクのベアリング化は予備調査完了済み」と書いた通り、 中折れリンクの樹脂ブッシュを汎用のニードルベアリングで置き換えるための大まかな用品構成は押さえてあります。
 

シェル形ニードルベアリング、外径20内径14、
先の6200と同様、水の浸入を防ぐためにシールが組み込まれたものを選びました。
こちらは一個\700でした。
 
このベアリングを選定したときの根拠が「ベアリングの外径がリンクの穴の内径と同じ」というところだったのですが、 中折れリンクの穴がベアリングの圧入に適した精度かどうかは、実際にベアリングを圧入してみないと分かりません。
 

けっこうドキドキしながら圧入しましたが、 先のゴムブッシュの時と同様、「手押しでは入らないけど工具を使うとスルスルと入る」程度の軽圧入でした。
 

ベアリングの内径側はシールが入ってますが、外径側は接触圧力だけでは水の浸入が心配。
圧入する前に穴の内側とベアリングの外周に液体ガスケットを薄く塗布して、 圧入後にキレイに隙間を埋めて完成としました。
 

 
軸の加工 

ニードルベアリングを適用するにあたり、 軸(シャフト)の外径とベアリングの内径が合わないのでシャフトのほうを削って取り合いを調整します。
 

「純正シャフトを削り込んじゃってダイジョブなの?」というのが自然な疑問だと思います。
どうでしょうね、取り敢えずオレが実験台になって走ってみますので、その結果で健全性を判断してもらいたいと思います。
健全かどうかは別として、このシャフト、外周に焼きが入ってて削るのがタイヘン。
切削によって焼きが入った部分が無くなってしまうので益々強度が心配ですが、 削り終わった感触で言うと「ベアリング用の軸としては十分使用可能」と思います。
 

 
組立 

段付き加工が済んだシャフトが用意できてから、リンクとベアリングを組み合わせて圧入します。
先に示した組立写真はこの組み立て中の様子です。
 

元にあった樹脂カラーは横方向の動きを抑えるツバを持っていたので、 そのツバにあたる要素を別途用意します。
摺動を伴うのでテフロンとステンレスのワッシャを組み合わる構成としました。
 

 
インプレッション 

エンジンユニットのグラつきは全く無くなりました。
原因と思しき2点を同時に変更してしまったので、どちらが主原因か断定的に語ることはできませんが、 2点のうちの1点である樹脂カラーは全く磨耗していなかったことから、 新車状態でのグラつきの主原因はゴムブッシュであると想像できます。
 
樹脂カラーが見て分かるほど磨耗している場合は新品交換やベアリングへの置き換えである程度改善すると思いますが、 最終的にはゴムブッシュまで排除しないとエンジンのグラつきは解消しないでしょう。
 
しかし、ジレラだって何も考えずにエンジンマウントにゴムを入れたりはしないはずです。
ランナーのエンジンは振動で自己破壊することで有名ですが、 その有害な振動をフレームや搭乗者に伝えないためにジレラなりに一生懸命考えた答えなんだと思います。
それゆえにゴムブッシュを排除してグラつきを抑えたエンジンで走っていると予期しないトラブルに見舞われることもあるかもしれません。
まぁ、メーカーが性能保障つきで出荷したものを変更するんですから、 それなりのリスクを負う覚悟は必要でしょう、それが改造ってもんですから。
 
走行感に関しては、加減速時やコーナリング中の姿勢変化が少なくなっていますが、 これまでリアサスペンションにオーリンズを投入したり、 フロントサスの内部パーツを作り替えたりと、 色々変更してるのでエンジンハンガーだけの効果とは言えないはずです。
ランナーに乗りはじめた頃の印象としては、ギャップで跳ねるしコーナーでは車体がヨレるし、 スクーターなんてやっぱこの程度のもんだろうな、と納得するしかない状態でしたが、 走行中に特に違和感を感じることが無くなってきたというのは、 自動二輪車として当たり前の走行安定性に近づきつつあるのかな、 と思ったりもします。
 
一点、5,000r.p.m.付近で「ゴゴゴゴ....」という振動がフレームに伝わってくるようになりました。
この振動は加速のときも減速のときも感じます。
中折れリンクとセンターブッシュである程度の振動は吸収してるはずですが、 ちょうど5,000r.p.m.あたりでセンターで吸収できない共振が出ているとしたら、 エンジンマウントのゴムブッシュがこの振動吸収を担当していたのかもしれません。
あくまで推測ですけどね。
 
この記事を書いている時点でエンジンハンガー改造から1,300kmほどを走行しましたが、 穴の内側に傷をつけたマウントアームを含めて機械的な不具合箇所は出ていません。
もっとも、マウントアームに不具合が出るとすれば、 内側から徐々に成長した亀裂がある日突然マウントアーム破断を引き起こすなんてことが想像できるので、 あまり車体を過信しないよう様子を見ながらの運用が続くことになるでしょう。
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