クランクシャフト交換(ロングストローク化)

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ランナー運用開始から早4年、走行距離はやっと1万キロを越えたところですが、 ラジエターキャップの水漏れを機にエンジンをオーバーホールすることにしました。
 

かなり前からロングストローククランクシャフト (→SS538906) を入手済みだったので、 なるべく早く交換しようと考えていたのですが、 水冷エンジンであることとリードバルブポート周りを作り直さなければならないのとで二の足を踏んでいたのです。

 
 
ラジエターキャップの水漏れはキャップを交換すれば治るでしょうが、ここが治って冷却経路内圧が復活すると、 次に弱い箇所に圧力が集中してランナーお約束の故障である「ウォーターポンプからの水漏れ」となるはずです。
またローター側のクランクシャフトオイルシールからはエンジンオイルが染み出していたし....
 
ショボいトラブルが何箇所か同時に出ている状態ってのは黄色信号です。
相棒のGアクもイマイチ調子が良くないのですが、これ以上悪くなって2台とも不動になる前に、 内燃系をフルオーバーホールしちゃいましょう。
 
 

まずはエンジンを降ろします。
この仕様でロールアウトしてから9,600km、焼き付きなどの大きなトラブルもなく良く動いてくれました。
 

 
クランクケース分解 

次にクランクケースの分割とクランクシャフトの摘出なんですが、 以前manabuさん という方のページで3本足のクランクケースセパレータでケースを割ってる写真を見て、 自分も同じセパレータを買ってGアクのクランク交換に使ってみたところ、 足の固定が不安定なのと、中心ボルトを回し始めると先端が滑ってクランクシャフト中心からズレていくので、 イマイチ使用感に優れなかったんです。使えないことはないんですけどね。
 
で、Gアクのケースにはケース分解用純正工具を取り付けるネジ穴が設けてあるんですが、 ここに市販のベアリングプラーを取り付ければ、それがケースセパレータとして使えて、 なおかつ3本足の汎用セパレータよりカッチリと使えました。
(→参考記事:Gアクのクランク交換
 
この「ベアリングプラーを使ってクランクを抜く」方法は、 ケースに工具をしっかり取り付けられるので引き抜き力の散逸が少なく、 プッシュロッドを締めこんでいくと最初の一回しで「パキッ」とケースが割れて、その後はスルスルとケースが抜けてきます。
先のmanabuさんのページには「センターボルトを締付けていくと「パッカーンっ」とケースが割れます」との記述があるのですが、 これはセンターボルトがクランクシャフトを押す力が3本の足のタワミとして吸収され、 タワミの反力がベアリングとクランクの嵌合力を上回った瞬間に、 バネのように跳ね返って「パッカーン」と割れてるんだと思います。
 
「そういうもんだ」と思って作業すれば3本足のセパレータでも分割作業を行えますが、 一度ダイレクトドライブのケース分割をやったことがあると、 あのカッチリとした作業感覚がないと不安になるんですよね。
 
なので今回もベアリングプラーを使ってクランクケースを分解したい。
でもランナーのエンジンにはGアクみたいに気の利いた工具掛けポイントなんかありません。 だからこそみんな汎用工具を使ってるワケなんですよね。
 
工具を取り付ける穴がなければ、工具とケースを連結するアダプタを作れば良いわけで、 右側ケースの場合はマグネトーローターベース固定ボルト穴、 左側ケースの場合はミッションケースカバー取り付けボルト穴を使えそうです。
 
 

というわけで作ってみました。
これが右舷(ジェネレータ)側ケース分解の様子。
(→右側用プレート07021601
 

これが左舷(ミッション)側。
(→07022301
 
 
 
3本足のセパレータと違うところは工具取り付けポイントと引き抜き軸力発生ポイントの近さ。
左舷側は3本足と同じ穴を使ってプレートを取り付けるので距離は同じですが、 たわみ易い足と違って面で軸力を支えるので軸力の損失は3本足形式に比べて使用感で分かるほど小さくなります。
 
このプレートの試作品は手近にあった材料で作ったため、 右舷側は20mm、左舷側は15mmの厚みがあったのですが、 明らかに強度が余り気味だったので、製品版はどちらも厚み10mmとして価格を下げました。
 
まず右舷側から着手します。
これは右舷側プレートのほうが引き抜き軸と工具取り付けポイントがより近いためで、 一番力が必要な動き始めの瞬間をよりダイレクトに引けるほうで作業することをねらいます。
組立時のことは後述しますが、逆に駆動側から先に組み立てます。
 
プッシュロッドを回しはじめると期待通り、最初の一回転で「パキッ」と小さな音がしてケースが分割線で剥離します。
その後は回転に連れてケースがスルスル上がって来て右舷側作業終了。
左舷側はもうクランクシャフトを押してやるだけなのでやはりスルスルと作業終了。
キモチイイ!
 
 
 

 
ケース内部の様子 

右側ケースが外れたところです。
リードバルブポートの盛りパテはミッション側に残りました。
 

パテ表面にエポキシを塗ることができなかった箇所を中心に、 ガソリンの浸潤がだいぶ進んでますが、 接着が剥がれるまでのことは起らなかったようです。
熱と圧力には意外に強いですね、エポキシ。
 

そしてクランクベアリングを抜いて、 ケースに残ったパテブロックをハツって除去します。
 

 
給気口の加工 

今回のクランク交換のついでに、「狭い」と感じていた掃気ポートへの通路(便宜上、給気口と呼ぶことにします)を広げます。
 

今回使うシリンダーはこんな感じで掃気ポートへ通じる通路を拡大しようと思ってます。
 
 
クランクケースのほうもシリンダに合わせて通路を拡大、 同時にリードバルブポートから給気口までの通路も拡大します。

で、これが加工前のケース内部の様子。
 

リューターで加工。
ちょっと削ってはリードバルブ側から見て見たりシリンダを宛がったりしては、 混合気が通り易そうな、給気口にはたくさん混合気が溜まりそうな形状を目指して掘り進めます。
 

これはシリンダーと合わせた様子ですが、 シリンダスカートを一部カットするとともに、 スカートのワキの壁を削って混合気が通る道を太くしてあります。
 

そして掃気ポートへ通じる通路はシリンダ側と滑らかに繋がるように心がけつつ拡大。
 

 
盛りパテの復旧 

ケース分割時に破壊した盛りパテを復活させます。

旧バージョン(→リードバルブ大型化) では側面から金属シャフトを通して、それにパテを盛り付けて剥離を防ぐようにしていましたが、 今度はバラしたケースを好きに加工できるので、 盛りパテの図心ぐらいの位置にM4のビスを立てて芯材とすることにしました。
 

右と左と別々に「盛って削って」を行うので中々キレイに左右が揃いませんが、 そんな神経質になって揃える必要もないでしょ。
 

今回の工事のために作ったダミーベアリング。
ランナーのロングストローク化に際してケースとクランクの干渉部を加工したって話は聞いたことなかったんですが、 本当に不要なのかどうか作ってみないと分からないので作ってみました。
(→04120901_05
 

クランクシャフトやリードバルブなどを仮付けした様子です。
ボイセンのリードが付いてますが、実際はTZMの純正リードを使う予定です。
ボイセンのリードは組立後の厚みがTZM純正より厚いので、 ボイセンリードで干渉チェックをクリアしておけば間違いなくTZMリードが入る、というワケです。
 

側面から見た様子です。
クランクケースの円弧を延長するような線でパテを盛れば、 クランクが動いてもコンロッドとの干渉はないようです。
 

左舷側も同様に干渉チェック。
 
 
この後シリンダを組む段になって、下死点付近でピストンスカートとクランクウェブが干渉することが分かり、 急遽ピストンスカートを削ったのですが、これは本来ダミーベアリングが無くても分かること....
 
ケース内部にパテを盛るなどがなければ、 ランナーのロングストローク化にあたってはダミーベアリングで干渉チェックをする必要は特に無いようです。
 
 

干渉チェックが終わったら盛りパテ表面にエポキシボンドを薄く塗り込んで終了です。
 

 
クランクベアリング圧入 

ランナーのクランクベアリングは外輪が厚い特殊形状。
この形状のベアリングを真直ぐ引いてケースに圧入するのって難しいです。
以前掲示板でショップの関係と思しき方から「ケースを過熱してベアリングを落とせばイッパツじゃないですか」という書き込みがあったんですが、 バイクショップや内燃機屋さんみたいに加熱設備があれば良いのですが、 ウチみたいに切削機械しかない作業場の一角とかマンションの駐輪場とかでいじってると、 「ケースを加熱する」って言われても無理です。
 
なのでGアク同様冷間圧入することになるのですが、ランナーの純正ベアリングに比べて縦長の規格ベアリングを使ってるGアクでさえ、 M8ネジスタッドとカラーを使ってベアリングを引いたら曲がって入っちゃって圧入をやりなおした、なんてことがありました。
 
ランナーのベアリングはGアクのベアリングより薄くなる上に外径が大きいので、圧入の際に曲がって入りやすい。
何かネジスタッドよりもっと強力に真直ぐ引っ張ってくれるような工具が欲しい。

「真直ぐ引っ張る」って言えばクランクインストーラポッドですよ。
これの引き駒にカラーを介して皿を連結した形状の引き工具を作ってみました。
 

これでベアリングの外輪を引っ張る、 ロッドの倒れはインストーラポッドにガッチリ押さえられてるので真直ぐ入ります。
 
なお、「ケースを加熱するのは無理」と書きましたが、 ベアリングとケースの温度差をできるだけ大きくすると圧入力が小さくて済むのでベアリングの曲がり進入の危険は小さくなります。
ベアリングを冷凍庫などで予冷、ケースは比較的暖かい場所にしばらく置いておく、 なんて配慮があれば良いですね。
 

 
クランクシャフト圧入 

クランクシャフト圧入の前にウォーターポンプを組み付ける必要があるんですが、 話しの腰が折れるので後述します。
(→ポンプ編を先に読みたい人はこちら
 
クランク圧入の順序としては(1)左舷側ケースにクランクを圧入、(2)右舷側ケースを圧入、という筋書きを組みました。
 
これは駆動系パーツの回転モーメントやベルトの張力などを受けるクランクの左舷側をベアリング内輪にカッチリ当てて止めるため。
大して力の掛からないジェネレータ側はベアリング側面に対してフリーにしておいても問題ない。
問題ないというか、そのほうが問題が起らなそう。
 
ジェネレータ側のクランクウェブとベアリングの間にクリアランスを作って、 そのクリアランスでクランクの引き具合を調整する、というワケです。
 
 

インストーラポッドはヤマハの純正ポッドの先端にカラーを取り付けたもの。
Gアクに使った時と同じ構成ですが、先端カラーはランナーのクランクに合わせて作り直す必要がありました。
 

まずは左舷側(ミッション側)のケースにクランクシャフトを刺します。
ベアリング内輪にポッド先端を突っ張らせて、クランクシャフトがベアリングで完全に止まるまで引きます。
引き終わったらケースの合わせ面に液体ガスケットを薄く塗布、 左右ケースの両面に塗るのが理想だと思いますが、 どっちか一方でも問題ないと思います。
わたしはダウウェルピンのない左舷側のケースに塗りました。
 

次に右舷側のケースを被せて、左舷側同様ベアリング内輪にポッド先端を突っ張らせて、 クランクシャフトを引きます。
 
 
クランクシャフトを引いていくと、左右のケースの隙間がだんだん狭くなっていきます。
 
隙間が狭くなって、液ガスがブニッとハミ出るまでクランクを引きます。
この時点では左右ケースの間は完全には閉じてません。
 
ここでケース連結ボルトを入れて、規定の半分以下くらいのトルクをかけます。
するとクランクの回転が渋くなりますが、これがまだクランクがベアリングを押してる証拠。
ここから更にインストーラポッドのナットを締め込んで、クランクが軽やかに回転するポイントを見つけます。
 
なので、この最後の一引きは慎重に!
一旦停止させた位置にもよりますが、ナットの回転角にすると半回転にもならないはずです。
回転の渋さが抜ける瞬間はポッドの筒を握るほうの手に「フッ」と伝わるので分かると思います。
 

クランクの回転がフリーになったらケース連結ボルトに規定トルクを掛け、 トルクを掛けた後にクランクが滑らかに回転すれば作業終了です。
最後に交換前クランクからフライホイール固定の半月キーを移植。
オイルシールはワッシャを介してインストーラポッドの先端で押して取り付けました。
 
 
なお、インストーラポッド本体は手で握ってるだけで回転を止めることができてました。
これはナットの座面にスラストベアリングを入れてる効果が大きいと思いますが、 何か工具を用いないとポッド本体の回転が止められない場合は、 クランクシャフトの寸法異常やクランクが途中で何かに干渉してることが考えられます。
この異常が分かるという意味でも、インストーラナットの座面にベアリングを入れるのはオススメです。
 
 

 
ウォーターポンプの組み付け 

この作業はクランクベアリング圧入に前後して行います。
 
今回、ウォーターポンプ周りもシールやベアリングを含めて一式丸ごと新品に交換します。
ウォーターポンプリペアキットは、クランクベアリングやオイルシールなんかといっしょに 宇賀神商会 から購入しました。
 
まずこのウォーターポンプアセンブリなんですが、ポンプシャフトを支える2個のベアリングの間のカラーが 内輪で突っ張る形になってます。
これは純正ポンプAssyも同じなんですが、これってどうやって組むことを想定してるんだろ?
 
ランナーのポンプAssyの構造から言って、ベアリングにシャフトを挿入して止め輪を組んだものを、 丸ごとケースに圧入するしかないハズなんだけど....
 
なんでそれが問題かっていうと、丸ごと圧入の場合ベアリングの間のカラーは外輪で突っ張る形でないと、 圧入した後に2個のベアリングの間に応力が残って、場合によっては回転の渋さにつながって、 最悪の場合ベアリングの異常磨耗でポンプが破損、なんてことにもなりかねない。
 
ウォーターシールを最後に外側から挿入するならば、なんとか応力を残さずに内輪カラー方式で組み立てることが可能なんですが、 ウォーターシールは外側からはどうやっても入らなかったので、 「残留応力ナシ・内輪カラー方式」の組立はできないはずです。
ただ、純正が「残留応力アリ・内輪カラー方式」で組立/出荷されてるので、 心配しすぎと言ってしまえばそれまでですが。
 
まぁせっかく「コッチのほうがもうちょっとイイじゃん」って方法があるので、 その方法を試してみようじゃないですか。

つったってカラー作っただけなんスけどね。
 

これが「外輪突っ張り方式」のポンプシャフトアセンブリです。
SUS製の内輪カラーをアルミ製外輪カラーに置き換えたことで1.5gの軽量化に成功....
 
この後の組立の順序としては、
(1).ウォーターシールをクランクケースに圧入
(2).シャフトアセンブリをケースに圧入
(3).アセンブリ抜け防止リングを取付
(4).インペラ取り付けネジを洗浄してネジロック剤を塗布してインペラを取付
となります。
 

ウォーターシールの圧入冶具を作ってみました。
 

これをベアリングプラーで押して、シールをケースに圧入。
 

ポンプシャフトアセンブリの圧入冶具も作ってみました。
 

これもベアリングプラーで押します。
ベアリングの外輪を押す形状になってるので、 理論上ベアリングには圧入応力が残りません。
 
このようにポンプの組み付けでもベアリングプラーが活躍したので、 クランクリムーバーの左側プレートにはポンプ用工具ポイントを追加して初製品を出荷しました。
 

この後クランクシャフトを圧入、左右ケースを連結して腰下の組立は完了です。
 
次は腰上(ポートタイミングや燃焼室容積)の調整となりますが、 ランナーの場合、エンジンの性格を変えることを考えなければポートタイミングの変更は必要ありませんでした。
それが分かるまでにシリンダを一個オシャカにしちゃったんですけどね....

 
 
 
腰上調整編に続く

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